弊社は「光アグリセンサー」を開発しました。この「光アグリセンサー」は、植物の環境に対する反応(代謝)状態の変位を光で、非破壊で観測するセンサーです。このセンサーを簡単に表現すれば、[植物の気持ちがわかるセンサー]と言えます。
植物は環境の変化に対して何等の反応をすることが判っています。例えば、水を与えれば、水を吸い上げ、成長します。光があれば光合成をし、実が甘くなります。この代謝の変化を「光アグリセンサー」はリアルタイムでの計測を可能とします。もし、センサーの反応がないのであれば、何等かの障害があることが分かるので、その障害を排除すれば、植物が喜ぶはずです。ものづくり補助金を活用し、開発に必要なさまざまな機器や測定器を購入しました。
農業のIT化、IoT、DXなどと言われていますが、これらはセンサーの情報を基にデータの活用方法を提案するものです。しかし、実際には今までのセンサーは、植物の置かれている状態の温度や湿度を計測しているだけで、それが植物に対して適正な状態かは分かりませんでした。いくらIT化、IoT、DXと言っても過去に上手く行っていた状態と比較するだけなので、決して効率を上げるものではなく、過去と同じにするための技術と言えます。
植物の応答を検出するセンサーには、植物に電極を植え込む方式があります。また、水分の吸い上げを検出するセンサーには超音波を使用するもの。光合成を計測するものは、CO2の吸収量を測定するような装置。他にも、糖の合成時に生成される熱を画像で観測する方法や、X線による計測、衛星からの画像による解析など大掛かりなものまで存在します。これらのシステムの多くは農業現場に向かないものです。また、センサーとしては測定値の絶対量を測定する専用のセンサーが殆どでした。
しかし、「光アグリセンサー」では絶対量、例えば水分量や糖度を測定するものではなく、植物の反応、変化を検出することを目的としていることから、多くの変位検出をひとつのセンサーで実現しています。
「光アグリセンサー」で把握可能な変位は、成長、水分、窒素(肥料)、光合成(転流)です。優位性は、ひとつのセンサーで多くの変位を非破壊で検出することが可能なことにあります。
生産者には、大量生産をしてコストを下げ、売り上げを上げたいと考えている方と、付加価値の高いもの、良いものを生産して単価を上げたい、独自性を出したいと考えている人に二分されます。前者に「光アグリセンサー」はあまり役には立たないと思います。でも、後者の良いものを作りたいと考えている生産者には、「光アグリセンサー」は役に立つと思います。
「光アグリセンサー」は、環境の変化が即値で解るので、その環境がその植物にとって良いかどうか、すぐに判明します。例えば、農産物の適正な温度範囲を正確に把握することで暖房費や、水、肥料などの資源消費を削減することができます。また、より品質を上げるために過去の状態に対し、数値で改善効果を評価することで生産性の向上、品質の安定化が期待できます。生産者にとって、新たな取り組みが可能でしょうし、より個性的な農産物の生産も可能かもしれません。出荷時期を意図的に操作するなど、儲かる農業にできるかもしれません。
今まで農業は、勘や経験に頼った産業でした。そのため、勘や経験が不足する新規参入者にとっては非常にリスクがあり、参入障壁が高い産業でした。そのことが、衰退産業となってしまった要因のひとつだと言えます。
「光アグリセンサー」は即値で栽培方法、状態が良いか悪いかが判断できるので、勘や経験を数値にすることで新規参入障壁が下がり、就農者の増加も期待できるのではないかとも考えています。そのことから食料自給率も改善すると考えています。他国の食料を奪うことなく、安心安全な食糧を消費者に届けられます。
反応が即値で観測する特性は、植物の研究、新品種の開発、新しい農業技術の開発に貢献できると考えています。例えば、温度の適正範囲が異なる品種を開発する場合、1年あるいはシーズンを通して成長の状態を比較することを繰り返すなど、非常に時間が必要な工程が必要です。しかし、このセンサーでは、適正な温度範囲かどうか反応を数値で即値で比較、評価ができるため、今まで非常に時間が必要だった研究開発を飛躍的に加速することができると考えています。
現在の地球環境は急激に変化しています。残念ですが、これに対し多くの方々の努力にも関わらず農業の技術開発は追いついていないと言えます。温暖化によって今までの農業が営めることができなくなりつつあります。
その結果、食料の確保が困難になり富めるものだけが食料を得る。そのことで不公平な社会、そして飢餓へと繋がってゆくとも考えられます。これは国や地域に関係ない大きな問題です。この「光アグリセンサー」で今まで農業に適さない地域でも栽培可能な品種、技術を開発し、農業を振興することで問題を解決することができるのではないか。また、農業が自然環境に与える影響は非常に大きく、農業の緑によって、多様な生物、環境改善、保護が可能であると考えています。今できる事は非常に小さい一歩かもしれませんが今考えるSDGsへの具体的提案と考えています。
農業及び植物の研究開発に従事されている方は多く、高精度なセンサーや測定装置を必要とされています。それらを扱っている商社や、研究機関の方に届けられたら良いと思います。
また、生産者をネットワークに持ち支援するところや、大手食品会社ともお話ができればと考えています。
「光アグリセンサー」は透過した光を検出する方式のため、すべての植物に適応できていないことや測定部位に制限があります。そこで、光の照射方法を変えた、例えば光ファイバーで導光するような形態にできれば、適応可能な植物を増やせることができるでしょうし、測定部位も例えば根とかも可能になるとも考えています。
また、「光アグリセンサー」を使えば生産性が即向上するのか? との質問をいただくこともあります。データがあってもどう活用するのかよくわからないかもしれません。そこで、このセンサーの出力、所謂AIの入力データとして使用することで、本当の意味のAI農業が可能になるとも考えていて、環境データと、「光アグリセンサー」との間には相関関係が認められる結果を把握していることから、「光アグリセンサー」を使って今までできなかった完全自動環境制御が可能になると考えています。
さらに、この光による測定技術、光センシング技術を発展させ、農業以外に適応した技術開発を進めたいとも思っています。具体的には、健康分野に貢献すること。工業分野における生産性向上、建設、水産業にも貢献できる技術とすることが今後の展望です。
2015年に桐生市にて、電子機器を開発する会社として設立しました。主に技術開発を事業としておこなっています。主な技術としては光センシング技術を使用したセンサーの開発が事業内容であり、この技術を適応した製品の開発、及び開発力を活用した受託開発です。また、仕様に沿った受託開発だけではなく、お客様のアイデアを実現するような開発提案もおこなっています。
私の前職は、光を使用した製品(CD/DVDの)光ピックアップ(レーザーで読み取るための部品)を製造する事業所でした。しかし、実際にはこれらの製品には殆ど関与しておらず、光ピックアップの次に何をするべきか、光を使って、何か面白いものができないかを模索していました。また、技術者として何か世の中に貢献したいとも考えていました。そのような状況の中で見つけたのが、光を使って血糖値を測定するというトレンドでした。また、同時期に農業の生産性向上が大きなテーマとして掲げられていた時期でもあり、「光で血糖値が測定できるのであれば、植物も糖だし、光合成も測定できるのではないか?」と考えました。
日本の食料自給率が低下し、食料を海外に頼らなければならない現状は、日本の危機だと言えます。日本の中で生産性効率を上げる必要があります。そして、付加価値の高い農産物を作ることで、今度は輸出ができます。そうしたことに電気屋、光屋が貢献できるのではないかと考え、「光アグリセンサー」の開発に取り組みました。
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